手のひらを合わせて
ある晴れた、気候の穏やかな休日。
ぽかぽかと春の陽気に心弾むような、
まさしくピクニック日和というのにふさわしい日である。
ガタガタと列車に揺られながらも周りを見渡せば
、
買い物袋を両脇に抱えた若い女性や、子供を連れた家族、
様々な人々がそれぞれの目的地に向かって列車の時間を過ごしている。
その中に、手を繋ぎながら、
そうそう昨日は菜の花が咲いていたわ、もうそんな季節なんだねぇ、
なんて会話を交わしている老夫婦に目をとめて、
(ああ、素敵なご夫婦だなぁ)
と、アルフォンスはひとりごちた。
もし自分も結婚する事があるのなら、彼らのように年を重ねても、いつまでも仲良くいたいものだと思う。
何をその若い身空でと思うかもしれないが、アルフォンスがそう思うのも無理はなかった。
なにせ隣には、新婚なのにも関わらず飽きもせずしょっちゅう口喧嘩をしている夫婦がいるのだから。
現に今も現在進行形である。
「まったくあんたは、いくつになっても我慢って言葉を知らないんだから」
「仕方ねえだろ。オレは人間の持つ本能に従ったまでだ」
「いちいちあんたの本能に付き合ってたら身が持たないのよ」
「鍛えられていいじゃねえか」
「誰もあんたに鍛えて欲しくないわよ。偉そうに言うな!」
ぽかんと頭を小突かれ、いってーな!と言って続けて発しようとしたエドワードの抗議の声は、
ウィンリィの鋭い視線をあびて縮小せざるを得なかった。
まだやってるよ…アルフォンスはため息をつく。
「…大体、無防備にあんな風に出してる方が悪いんだよ。そこにあれば食う、ってのが男だ」
「勝手に美化してんじゃないわよケダモノ」
「けっけだ…//!?人聞きの悪い事言うんじゃねえ!」
他人が聞けば昼間っから何を話してるのかと誤解を招くような会話だが、
大の照れ屋である彼ら2人に限って、堂々とそのような話しをするはずはなく、
当の本人達も無自覚であるのだから手に終えない。
「だってせっかく今日の為に早起きして作ったお弁当、全部食べちゃったじゃない!」
そう、喧嘩の発端はウィンリィが今日のピクニックの為に早朝から丹精込めて作ったお弁当を、
このケダモノ兄は遅く起きてきた挙げ句腹が減ったと言って、彼女の見ぬ間に全て食べてしまったのである。
我が兄ながら起き抜けにあれだけの量をひとりで平らげるとは、
なんというか…うん、
余程、彼女の作ったお弁当が旨かったのだろうと思う。
きっと例えるなら『殺人的にうまい』だ。
お陰で今日のピクニックは、おにぎりオンリーという若干味気ないメニューになってしまった。
まあそれでもウィンリィの手作りであることに変わりはないし楽しみなのだが、
『殺人的にうまい』手作り弁当を1人だけで食べた兄に、多少怒りを覚えても致し方ないはずだ。
「兄さん、食べちゃったのはもうどうしようもないけど、そうゆう態度はダメでしょ。ウィンリィ楽しみにしてたんだから」
「う…、わ、悪かったとは思ってる…だけどよ…っ」
「だけど?」
「…あ」
しまったといった風に、とたんに少し頬を染めて、いやその、だから…ともごもごと口ごもる兄に、
アルフォンスはまたもやため息をつきたくなった。
まあ、わからないでもないけどね…
代弁すると旨すぎて止まらなかった、といったとこだろう。
でもそろそろ、その詰まらない意地みたいなものを捨てて欲しいものだ。
「いいわよアル。エドはお昼抜きだから」
「んな!?ちょ、ちょっと待てウィンリィ!なんだそれは!?」
「当たり前でしょ?あれだけ食べておいてまだ食べるとは言わせないわ!」
「食う!オレは食うぞ!!まだまだ育ち盛りなんだからな」
「……もう諦めなさいよ…(可哀想な目)」
うるせ―誰が豆か!とお決まりの掛け合いをしている間に、列車は目的の場所に到着したようだ。
オレはまだ伸びてるっつ―の、とぶつくさ文句を言うエドワードを、
アルフォンスはホームに促しつつ、ウィンリィの方をちらりと盗み見る。
彼女が怒っている姿を直視できない辺りボクも兄の事は言えないなどとアルフォンスは苦笑する。
と、意外な事に彼女は笑顔である。
「?楽しそうだね、ウィンリィ」
「そう?なら、そうなのかもね」
ふふっと悪戯そうに笑うウィンリィ。
この兄には勿体ないとアルフォンスは思う。
ウィンリィはぴょんとホームに降り、迷うことなくエドワードの腕に手を回した。
突然のウィンリィからの接触にエドワードはぎょっとする。
な、なんだよ…?と伺うようにウィンリィを見るエドワードの姿はなんと情けない事か。
そこでふと、アルフォンスは先程の老夫婦を思い出す。
(でも、まぁ…言い合いしながらも手を繋いでる老夫婦ってのも、良いかもね)
今はまだ遠い未来を描いて、アルフォンスは微笑むのだった。
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電車に乗りながら暇すぎて書きました(笑)
お年寄りの夫婦が隣合わせに並んで座ってるとか大好きです!